ペットの食事と仕事 豆知識
今回は、受講生・修了生限定で公開している『ペットフーディスト専用ページ』から、『ペットの食事相談実例集』コラムをご紹介します。ご参考くださいね。
犬の病気や不調の中でも特に多い皮膚疾患。これだけ栄養学や獣医療が発達してきた現在でさえ、皮膚疾患に悩むオーナーとパートナーは後を絶ちません。
皮膚疾患といっても原因はさまざまなため、慢性的に症状が続く場合もあれば、治ったと思った矢先に再発することも。そんな皮膚疾患について、統合医療(ホリスティック医療)を実践されている獣医師のプレマ動物ナチュラルクリニック院長 羽尾健一先生にお話を伺いました。
皮膚と皮脂腺
皮膚は身体最大の器官であり、外部環境からの保護バリアとして機能し、体温を調整し、動物に触覚を与えます。皮膚の重さは、犬の場合、体重の12〜24%(犬種と年齢によって異なる)になります。また、皮膚には3つの主要な層があります。表皮、真皮、そして皮下組織です。そして、皮膚の他の重要な部分には、皮膚付属器(被毛、爪、皮脂腺など)や皮下の筋肉や脂肪などがあります。
皮脂腺は、皮脂と呼ばれる油性物質を分泌します。それらは、肢、首の後ろ、臀部、顎および尾の周りに多数存在しています。皮脂は、肌を柔らかく、しっとりとしなやかに保つために重要です。また、被毛に光沢を与え、抗生物質の性質を持っています。
皮膚トラブルの原因は?
皮膚トラブルの原因には、細菌や真菌などの微生物による感染や、ノミやマダニの寄生、アレルギーやガンなどさまざまなものがありますが、今回は主にアレルギー性皮膚疾患についてお話ししたいと思います。
アレルギーには必ず痒みが伴いますが、アレルギー以外の皮膚疾患、例えば、細菌や真菌などの微生物やノミやマダニの感染、高齢の場合は皮膚の腫瘍などでも痒みが出ることがあります。そのため、まずは最初にこれらの疾患を動物病院での検査で鑑別してもらい、除外することが大切です。
アレルギー以外の皮膚疾患が否定できたら、いよいよアレルギーの診断に移ります。アレルギーには、食物アレルギーと環境アレルゲン(ダニ、カビ、花粉など)に対するアレルギー(アトピー性皮膚炎)の2つがありますが、このうち、食物アレルギーには次のような特徴的な症状があります。
1.目や口のまわり、背中、肛門のまわり、会陰部に痒みがある。
2.1歳未満から痒がっている。
3.1年中痒がっている。
4.1日に3回以上排便する。
これら4つのうち、1つでも当てはまるものがあれば、食物アレルギーを疑います。
一方で、環境中の物質(花粉、ダニ、カビなど)に対するアレルギーであるアトピー性皮膚炎の場合は、アレルゲン(アレルギーの原因物質)が増える季節(スギ花粉なら春、ダニやカビなら湿度と温度が高くなる梅雨時期)に症状の悪化がみられます。痒みの起こる部位は、喉元、脇の下、太腿部、四肢の屈曲部などですが、これらの部位の痒みは食物アレルギーでも起こることがあるため、見分けるのが難しい場合も結構あります。
また、外耳炎は食物アレルギーでもアトピー性皮膚炎でも、どちらでも起こり得ますが、中には耳以外に症状がまったく無く、単なる外耳炎と診断され、根本原因であるアレルギー疾患が見落とされてしまうこともありますので、難治性や再発を繰り返す外耳炎を患っているパートナーは注意が必要です。
アレルギー性皮膚炎の治療と統合医療
食物アレルギーの治療には、原因物質(主に食物中に含まれる特定のタンパク質)を含まない食事を与えることが基本になります。
血液検査を用いて原因物質を特定した後、あるいは、検査を行わない、検査しても分からない場合は、タンパク源として今まで食べたことのない食品のみを2ヵ月ほど与えて、痒みが改善されるかをみていきます。ここで注意するポイントとしましては、似たようなタンパク源には反応してしまうことがあるということです。
例えば、牛肉にアレルギーがある場合は、同じ反芻動物の羊の肉にも反応することがあります。他に、鶏肉なら七面鳥や鴨の肉に、魚なら他の種類の魚全般に反応することがありますので、食材選びの際はご注意ください。
一方、環境中の物質が原因のアトピー性皮膚炎の場合は、治療の基本は原因物質との接触をできるだけ避けることです。それから、適切なシャンプーや保湿剤などスキンケアも併せて行います。
実際の治療現場では、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎を両方持っているパートナーが意外と多いことを知っておいてください。
当クリニックでは、自然療法を主体に治療行っていることもあり、「化学薬品は一切使わずに、例えば漢方薬だけで治してほしい」といったご要望を受けることがあります。しかし、アレルギー性皮膚疾患は自然療法だけで簡単に治る病気ではありません。ただ、今までお話してきたことを順番に行っていくだけで、薬を使わずに症状が軽減することも多々あります。そして補助的に自然療法を併用していくスタンスを心掛けています。
また、痒みがひどく皮膚を掻き壊してしまったり、痒みで夜もぐっすり眠れなかったりするケースでは、化学薬品の痒み止めも適時併用することをおすすめしています。最近ではステロイド以外にも副作用のより少ない内服薬や注射が開発されていますので、お悩みの方がいらっしゃれば、かかりつけの先生に一度相談してみてください。
QOLの向上を目指した家庭でのケア
人間同様、暇ですることが無かったり、ストレスを感じてイライラしたり、不安になったりすると痒みが増すことがあります。また逆に、痒みで精神的に不安定になったりすることもありますので、一緒に楽しめる遊びをしたり、適切なフラワーレメディ※を与えたりして、精神的なケアもぜひ行ってあげてください。
また、あまり土の上を歩かないパートナーには、アーシングをおすすめします。アーシングは、地球と素足で直接触れ合うシンプルな健康法です。
物理的には、体にある静電気を大地に逃がすのですが、私たち人間も含めた動物にとって、地球と繋がることは、心身を正常に保つために、実はとても大切な事なのです。
これはあくまで個人的な見解ですが、アーシングの効果として、睡眠の質の向上(ぐっすり眠れて疲れがとれる)や、炎症性疾患の治りが良くなるなどが期待できます。今の日本では、道路がアスファルトで覆われ、人間は電気を通さない靴底の靴を履いているので、私たちもパートナーも、大地に直接触れる機会がとても少なくなっています。
アスファルトやコンクリートでもまったくアーシングできないわけではありません(雨の日のアスファルトなら水が電気を通すのでよりアーシングができます)が、できれば土の上や芝生などに直接触れさせてあげてください。アーシングは、1日出来るだけ長い時間、広い面積で、リラックスして行うのが最も効果的です。
毎日自然の中に出掛けられない人やパートナーは、室内でアーシングが出来るグッズが売られていますので、そちらを活用なさるのも一つの方法です。ぜひ日常生活にアーシングを取り入れてみてください。
アーシングに関連して、特に印象的だった患者様がいました。その子はミニチュア・ダックスフンドで酷いアトピー性皮膚炎だったのですが、年に数回オーナー(飼い主)さんの実家に行くとみるみる症状が改善して、掻き壊して脱毛していた被毛が綺麗に生え揃うのです。
お聞きするとご実家の裏に山があって、帰省した時は1日中、山の中を走り回っているということでした。普段は室内で暮らされているので、ご実家での生活で室内のアレルゲンへの暴露が減少したことが、症状が改善した最大の理由だとは思いますが、自然の中での生活で心身共にエネルギーが充足し、生き生きとした印象を診察時に受けたことを鮮明に覚えています。
人も動物も自然によって生かされているという当たり前のことを再認識し、自然療法やホリスティックケアの本質を実感した素敵な経験でした。
※フラワーレメディ:植物のエネルギーを転写したエッセンスを使うホリスティックケアの1つ。姉妹講座『ホリスティックケア・カウンセラー養成講座』では、バッチフラワーレメディについても学ぶことができます。
執筆:羽尾 健一先生
獣医師/プレマ動物ナチュラルクリニック院長
ホリスティックケア・カウンセラー養成講座(姉妹講座)
『ホリスティックケア総論』『ホリスティックケアと食事』『犬と猫の生理学・解剖学』担当講師
ペットフーディスト養成講座では、犬と猫の栄養学、手作り食、薬膳、病気と食事管理など、食事について詳しく学べます。