ペットの食事と仕事 豆知識

飼い主のための中医学 -春のお悩み-

姉妹講座「ホリスティックケア・カウンセラー養成講座」の受講生限定で公開している専門家コラムを、一部みなさまにもご紹介します。

 

こんにちは。「マッサージ」「中医学養生」の担当講師で、かまくら元気動物病院院長の石野孝です。

 

立春を境に2、3、4月が春という季節です。中華圏では、旧正月を春節といい、まさに春を迎える節目となっています。

春は、冬の間に眠っていた体内の不調が表面に出やすい時期です。また、陰陽五行学説に基づくと、肝に影響が起こりやすい季節と考えられており、肝臓、胆嚢の不調が出やすい時期ともいえます。みなさんのパートナーも、肝臓の数値が悪かったり、食欲不振・嘔吐・下痢などの症状が出ていたりしませんか?

 

最古の中医学理論の聖典「黄帝内経」(こうていだいけい)の「素問(そもん)・四気調神大論(しきちょうしんだいろん)」には、「季節に心身を調和する方法」が記載されています。なぜ季節ごとの過ごし方を考える必要があるかというと、中医学では、自然界に「邪気」という、病気の原因になる要素がいくつかあり、季節ごとに適した生活を送ることによってその邪気を避け、病気になりにくくするという考え方があるためです。

春の過ごし方のポイント

春は「発陳(はっちん)」の季節とされています。発陳(はっちん)の陳とは古いもののことをいい、春の陽気の上昇とともに内にこもっていた陰気が発散し、万物が息を吹き返したように発生する、という意味です。古いものを出し、新しく芽吹くイメージです。

 

古典によると、春の過ごし方として、「夜は遅く寝てもよいが朝は早起きをして散歩をする」「頭髪は解きほぐし、服装はゆったりとし身体を緩めることがよい」「心中の意欲を起こし育てる。起こした意欲はのびのびと育て抑さえつけてはいけない」「生長に役立つものは施し奪ってはならない」と記載されています。なぜなら、春の気は発散するかの如く外へ外へ向かいますが、それによって冬場にためておいた体内の陰気を体の外へ出してくれると考えられているためです。それに反して静かに沈んだ状態でいると、病気になるというわけです。例えば人の場合、夏になった時に汗をかきづらくなり、冷え性になるといったことが起こります。ですから、春は適度に発散することが必要。季節の気の流れに気付いた先人の知恵なのです。

 

みなさんも、冬の間は寒くて内にこもることが多く、行動も知らず知らずのうちに制限していたことと思いますが、春になったらあそこへ行こうとか、暖かくなったらこれを始めよう、などと思いますよね。また、春は外で活動する機会が増え、散歩が気持ちよい季節ですよね。このように、春はやる気が自然と出て、新しいことを始めたくなる時期。「素問・四気調神大論」に書かれていることを自然と行っている、というわけなのです。

犬や猫の春の過ごし方 注意点

犬や猫は、人のように汗で体温調節はしませんので、中医学のさまざまな原則に当てはまらない点もあります。しかし、春は隠れていた病気が芽吹いてくる時期だ、ということは感じます。また、春の陽気の上昇とともに体は活力を帯びてきますので、発散の力が強まります。

 

ここで注意事項があります。

冬場、じっとしていた足腰を急に動かすと、痛みや麻痺などの運動器トラブルのもとになります。ですので、春のお散歩は、いきなり張り切るのではなくのんびり行うことがおすすめです。ただし、パートナーの制御が難しい場合は、準備マッサージを行うとよいでしょう。

お散歩前の準備マッサージ

■皮膚を引っ張るマッサージ

体表は、衛気(えき)といって、いわば体を防御しているシールドのようなもの。体表全体に気血を巡らせるために皮膚を引っ張り、皮下の毛細血管の滞りを解消し、体をあたためましょう。首の後ろからしっぽの先にむかって、両手で背骨の中心と背骨の側面の皮膚を引っ張りましょう。ここには督脈、膀胱経が走行しています。督脈は特に陽を司ります。膀胱経には、各臓器につながる経穴が並んでいて大変重要な経脈です。さらに体の側面の皮膚も引っ張ります。体の側面には肝経、胆経の経脈が走行しています。

 

■足先のマッサージ

足先をさわって冷たくはありませんか?冷たい場合は血流が悪い状態ですので、マッサージをしてください。まず、先端をもみましょう。嫌がらなければ、指の間や爪のきわももみましょう。体を目覚めさせるようなイメージでおこなってください。

 

また、春はまだまだ気温が低い日も多いもの。昼夜の寒暖差が冬場よりも激しい場合、隠れていた循環器系や呼吸器系などの体調不良が発現することが多くなります。猫の場合、昼夜の温度差が膀胱炎のリスクを高めるため、あなどれません。しばらくは暖房器具などを使って、温かくすごしやすい環境にしておくことをおすすめします。

春におすすめの食事

春は、良くも悪くも「肝」に影響を与える季節です。

薬膳には「以蔵補蔵(いぞうほぞう)」といって、不調の部分と同じ臓器を食べることによってその部位の働きを助ける、という考え方がありますので、これを取り入れてみましょう。

補肝の働きを持つ鶏レバーをゆでて、食事に少し加える食養生が行えます。ただし、ビタミンAの過剰摂取を防ぐため、毎日続けて与えないようにしましょう。

 

また、香りのよい旬の春野菜は、気のめぐりをよくします。平肝作用のあるセロリ、補五臓作用のあるキャベツを加えてみるのもいいですよ。

セロリは、生のまま薄く細かく刻みます。キャベツは、ゆでて細かくみじん切りにして加えましょう。もちろん、オーナーであるみなさんも、以蔵補蔵の食材、旬の野菜を一緒に召しあがってください。

疾患がある場合は動物病院の受診が必須ですが、パートナーもみなさんも、「日々の生活はゆったり、のんびり」を忘れないでくださいね。

(執筆:石野孝)

 

【参考文献】
初めて読む人のための素問ハンドブック 医道の日本社
黄帝内経 中国古代の養生奇書 医道の日本社
中医学基礎理論 刮痧国際協会(かっさこくさいきょうかい)
東洋医学の春夏秋冬 三樹書房
愛犬のためのホリスティック食材事典 日本アニマルウェルネス協会

豆知識へ戻る